恋したり恋されたり 〜LOVEPEACE〜
第22恋 「オドロキと初めてのキモチ」

「ねえフィル君! 今日は何の日か知ってる?」
 うん、もちろんだよ。シオ。
「本当? 良かった」
 その時のシオの笑顔がもう、何というかたまらなく可愛かった。
 シオから太陽みたいに眩しい光が出ているような気がした。
 俺は右手を伸ばしてシオの額にかかっている髪を払って──

 …………。
 って、夢オチなんだ。
 枕の上に頭を乗せたまま、俺は少し落ち込んだ。でも、気を取り直した。
 何ていったって今日は久しぶりの休日なんだ。
 それに、ほら、カーテンの隙間からはとても明るい暖かい光が差し込んでいる。良い天気なんだ。
 イイコトがある気がする──
 俺はそんな気がして、枕元に置いたラヴピースを見た。
 この前シバから買ったアイテムなんだ。結構高くて、買おうと思ってた新作の釣り竿も我慢しなきゃいけなくなったんだけど、それでも後悔はない。
 だって、これは『大好きなあの子の心をゲットできるとってもステキな恋のアイテム』なんだから!
 今日は休日。うん、今日こそこれを使うべきなんだ!
『今日は何の日か知ってる?』
 夢で聞かれた言葉を思い出した。
 きっと今日は俺の思いが伝わる日なんだ!
「よーしこれでハートをゲットするぞ!」
 何だかすごく気分が盛り上がってきた。俺はラヴピースを掴んで布団から飛び出した。


 勢いのまま、大急ぎで朝ごはんを食べて、そのまま海猫亭へ向かった。
 レストラン海猫亭の前にはイヴちゃんがいた。入り口のメニューを書き換えているみたいだ。
「おはよう。イヴちゃん」
 俺の挨拶を聞いたイヴちゃんは風が吹くような速さでこちらを見た。そのままの速さで俺に抱きつこうとする。俺は両腕を突き出してそれを拒む。
「フィル君! イヴに会いに来てくれたのね!」
「え……、いや、イヴちゃんじゃなくてシオに……」
 その言葉を聞いたイヴちゃんは頬を膨らませる。
「シオちゃん? シオちゃんならアイトとどっか行くって言ってたわよ」
「え……」
「最近あの二人一緒に出かけてるのよねー。ギルドの仕事も一緒にしてたでしょ。だから、さぁ、フィル君も、イヴと一緒に出かけましょ!」
 元気よく俺を誘うイヴちゃん。でも、俺はシオとアイトが一緒に出かけるということの方が重大で、イヴちゃんの誘いどころじゃなかった。
「イヴちゃんゴメン。俺ちょっとそういう気分じゃなくて」
 溜め息をついてから、俺はイヴちゃんに「またね」と言って、来た道を戻ることにした。
「待ってよ! フィル君!」
 俺を引き止めようと、イヴちゃんは右手を伸ばした。その勢いでバランスを崩してしまった。
「きゃっ!」
「イヴちゃん!」
 慌てて支えたら、そのままイヴちゃんを抱きしめるみたいな形になった。イヴちゃんの顔が、まつげの本数まで分かるくらいに近くにある。
まつげ長いなぁ……。両腕に感じる感触は柔らかかった。
「フィル君……」
 上目づかいで俺を見るイヴちゃん。か、可愛い……。
 俺はシオのことが好きだけど、でも、イヴちゃんが街でも有名な美少女ってことだって知っている。俺は何も言えずに、でも口はパクパクと開いたり閉じたりと繰り返した。
 多分時は全然経ってなかったと思うけど、かなり近い場所で扉が開く音が聞こえた。俺は反射的にイヴちゃんから離れた。
 そこから出てきたのはシオとアイトだった。それぞれ剣と槍を持っている。
「おはよう! フィル君、イヴちゃん」
 シオはいつもの通りの笑顔で俺とイヴちゃんを見た。うん、イヴちゃんでドキドキしてしまったけど、やっぱりシオは可愛い。さっきのシーンは見ていないみたいだ。よかった……。
「これからアイト君と特訓してくるんだよ!」
「特訓?」
「シオさんがリーチの長い相手との対処法を考えたいってさ」
 俺の質問にアイトが答えてくれた。
「じゃあ、行ってきまーす!」
 シオは大きく手を振って、二人は行ってしまった。そのタイミングを利用して、俺も海猫亭から離れることにした。
「良かった。特訓か……」
 だったら、俺じゃなくてもしょうがない。……悲しいけど。
 でも、今日はこれからどうしよう。ラヴピース使おうと思ったのに。
 これじゃあ今日はイヴちゃんを支えたってことだけで終わってしまう。……柔らかかったなぁ。 
 じゃなくて!
 俺は気分を変えようとラヴピースを取り出して見た。そして物凄く重大なことに気がついた。
「ところでこれってどうやって使うんだろう……」
 不思議なアイテムといったら──俺はティコ魔法堂へ行くことにした。

 まだ早いからかな。ティコ魔法堂にはそんなにお客さんはいなかった。商品を追加している最中のルヴェルさんに軽く頭を下げて、カウンターで肘をついているティコさんのところへ行った。
「あら、いらっしゃい。フィル君」
「おはようございます。実は、見てもらいたい物があるんです」
 そう言って、俺はティコさんにラヴピースを見せた。ティコさんはそれを見てすぐに言った。
「あら、ラヴピースじゃない」
「知ってるんですか?」
「当然知ってるわよ。クリックが作ったのよ。『大好きなあの子の心をゲットできるとってもステキな恋のアイテム』よね。私も実際に使ったことがないから分からないけれど、確率はかなりのものらしいわ」
 へぇ、ティコさんが言うくらいだから、間違いなさそうだな。
「……それにしても」
 ティコさんは片手を軽く口元へ添えた。
「ラヴピースを持ってくるなんて、フィル君は私に興味でもあるのかしら?」
 そして含み笑いをした。
 その時のティコさんの顔はとても魅力的というか、魅惑的だった。自分の顔が赤くなるのがよく分かる。
 い、いや、イヴちゃんにしろ、ティコさんのにしろ、そうじゃなくて、俺が好きなのはシオだって!
「お、お邪魔しました!」
 俺は挨拶もそこそこに、魔法堂から出た。

 そのまま街を歩いていたら、ヤヨイちゃんに会った。今日も大きな籠を持っている。籠の上には日の光が当たらないようにか、薄い布が一枚かかっていて、
何が入っているのかはよく分からない。
「フィル君! ちょうど良かったッス」
 そう言いながら、ヤヨイちゃんは布を取った。ちょっと濃いめのピンク色が目に入った。
「フィル君にプレゼントッス! 新作果物ッス!」
 籠の中身は確かに見たことのないものだった。上の部分の中心がへこんでいて、下は尖っている。何だっけ? 何かに似ているなぁ。
サイズは俺の握りこぶしより、ふた回り小さいくらいかな。
「さっそく食べてみるッス! 皮ごと食べれるッスよ!」
 お言葉に一つ食べてみた。甘酸っぱい。
「うん、美味しいね」
「みんなとラヴラヴになれる果物ッスよ。これでフィル君はモテモテッス!」
「え……?」
 あまり信じることはできないような効能を言われた気がする。
「……ラヴラヴって、聞き間違いだよね?」
 確認してみたけど、ヤヨイちゃんは首を横に振った。
 果物をまじまじと見てみた。それでこれが何に似ているのかを思い出した。ハート形だ。
 いや、ヤヨイちゃんは確かにすごい果物を作ったことがあるけどさ。みんなと仲良くなれる果物とかさ。でも、ラヴラヴって……。愛情は友情と違って対イチで関わる感情だよ!? 果物だけですめばどれだけ気楽なことか!
 という俺の考えも知らないヤヨイちゃん。
 彼女は俺の腕に手を回した。籠の固くて軽い感触を肘に軽く感じた。
「や、ヤヨイちゃん!?」
「そういうことでフィル君ウチに来てくれないッスか? 私の手料理をごちそうするッス!」
「え? いや!」
「遠慮はいらないッスよー 私、料理には自信あるッスよ」
「うん。それは知ってるし、ちょっと食べたい気はするけどでも!」
「でもじゃないッスよ! 食べたいなら行くッス!」
 ……ヤヨイちゃん、意外に積極的だ。
「じゃなくて、ちょっと!」
「あら、そこにいるのはフィル君じゃないの。可愛い彼女ね」
 そこにいたのはいくつかの袋を持ったサラサだった。フィルと彼の腕を掴むヤヨイを交互に見る。
「サラサさん!? 違う! 助けて!」
 いつも落ち着いているサラサさん。彼女ならきっと──
「何だか今日のフィル君は素敵ね。私も胸がドキドキしてきたわね」
「いや、だからその!」
 ガタンという音がし、俺たち三人は揃ってそちらを見た。そこには震えるクリック君が立っていた。
 俺はヤヨイちゃんとクリック君が付き合っていることを思い出した。
「違うんだ! クリック君!」
 クリック君は青い顔をしてそのまま走り出──そうとしてすぐにバテる。俺はサラサさんとヤヨイちゃんを振り切って、クリック君に駆け寄った。
「ダメだよクリック君……。急に走り出しちゃ」
 彼の肩を掴んだ──あれ?
 この感触は……。
 俺は今日のイヴちゃんとヤヨイちゃんとサラサさんの感触を思い出した。
「触らないで下さい!」
 クリック君は本気で俺を振り払い、驚きでそのまま動けない俺を置いてどこかへ行ってしまった。

「ルヴェルさん!」
 閉店という札が見えたけど、俺はためらわずにその扉を開けた。帳簿の計算をしていたルヴェルさんはかなり驚いていた。
 そしてクリック君の話をする。
「ああ、フィルは知らなかったのか。クリックは実は妹じゃよ。女じゃなくて男になりたかったと言って、小さいころから男の格好をしておったがのぅ」
「え……。や、ヤヨイちゃんはっ!?」
「自分と正反対だから憧れるらしいぞ。ヤヨイちゃんは可愛いから無理ないのぅ。しかし、クリックも最近可愛くなったのぅ。さすがワシの妹」
 確かに最近のクリック君の顔は初登場に比べてやけに可愛いんだよ。可愛すぎるんだよ。キュンとくるよ。
 ドキリ。
 な、何だ……この胸の高鳴りは!?
 僕は一体どうしたんだ!?
 


次回予告
 ゲーム内では隠しキャラだったアノ子も登場しちゃったぞ。男はギャップに弱いっていうし、恋の行方は大混乱?
 ──大好きなあの子の心をゲットできるとってもステキな恋のアイテムラヴピースを巡るフィルの素敵系ラブラブ恋愛シミュレーションの完全ノベライズ!
「恋したり恋されたり 〜LOVEPEACE〜」
第23恋 「聖夜のキセキ 〜これって恋カモ〜」 は来月発売の「月刊晴れ雲」でヨロシクね!


−−−−−−−
注:本作品で使用された設定は「恋したり恋されたり 〜LOVEPEACE〜」の完全オリジナル設定です。
「晴れたり曇ったりシリーズ」の設定とは一切関係ありません。
そして続きません。